千曲川ワインバレーの中心で——東御市のワイン産業のはじまりと未来

東御市は、千曲川ワインバレーの中心に位置する“ワインのまち”。

はじまりの地「ヴィラデストワイナリー」、栽培と醸造の学びの拠点「アルカンヴィーニュ」、そして遊休荒廃地の大規模復旧によりワインブドウ団地として生まれ変わった、未来へとつながる「御堂」——それぞれが異なる個性を持ちながら、土地と人が育むワイン文化を支えています。 自然とともに歩む生産者たちの思いを、三つの物語からご紹介します。

丘の上のガーデンから始まった ヴィラデストワイナリー (Villa d’EstWinery)

長野県東御市・和地区の丘の上に広がる「ヴィラデストワイナリー」は、エッセイストで画家の玉村豊男さんが1991年に移り住み、自らブドウを植えたことから始まりました。

当時はまだワインの産地として知られていなかった“とうみ”の地に、フランス留学で触れたワイン文化を重ね合わせ、「農業をしながら暮らす」という夢を形にした場所です。

2003年にワイナリーが誕生して以来、この地域のワイン文化を切り開く原点となり、現在では多くの醸造家や農家が独立し、東御市は“ワインのまち”として知られるようになりました。

丘の斜面に広がるブドウ畑は、日照時間が長く雨が少ない気候、昼夜の寒暖差といった条件に恵まれ、良質なブドウを育みます。敷地内には、ブドウ畑を一望できるレストランとショップを併設。ショップでは自社ワインのほか、玉村さんの描いたポストカードや器などを販売しています。

併設のレストランでは、地元産の野菜や肉を使った本格的なフレンチを提供。グラスに注がれるワインは、すぐそばの畑で育ったブドウが醸されたものです。四季折々に移り変わるガーデンを眺めながら、料理とワインのマリアージュを楽しめます。

また、週末には事前予約制のワイナリーツアーも実施。ブドウ畑から貯蔵庫までを巡りながら、ワイン造りの奥深さに触れることができます。貯蔵庫には創業当初のヴィンテージも静かに眠り、長い年月を経たワインの熟成の香りを感じられます。

春には色とりどりの花が咲き、夏は爽やかな風が吹き抜け、秋には赤や黄色に色づく山々がブドウ畑を包み込みます。非日常の時の流れ中で自然と一体になれる——そんな時間が、ヴィラデストには流れています。


栽培と醸造の学びの拠点 アルカンヴィーニュ(ARC-EN-VIGNE)

東御市の豊かな自然に抱かれた「アルカンヴィーニュ」は、ヴィラデストワイナリーの姉妹施設として誕生したワイナリーです。自社ブランドのワイン造りに加え、地域や全国の生産者からブドウを預かり醸造を行う“委託醸造”を手がけており、ワインづくりを志す人々にとっての学びと挑戦の場となっています。

館内には、醸造設備や樽熟成の様子を見学できるほか、併設の「千曲川ワインアカデミー」では、全国各地から集まった受講生が、栽培・醸造・経営を1年かけて学びます。講師には国内の著名な醸造家や研究者が名を連ね、現場に根ざした実践的な指導を行うのが特徴です。卒業生の約6割が実際にワイナリーを立ち上げるなど、ワインをテーマに地域に新たな営みやワイン文化を広げる力になっています。

建物のデザインはヴィラデストワイナリーと同じく玉村豊男氏によるもので、白い外壁に青いラインが千曲川を表現。内部には古樽を再利用した空間もあり、静かな中にも温もりを感じる雰囲気です。見学やテイスティング(有料)も受け付けています。


遊休荒廃地からの新たな挑戦 リュード・ヴァン カーヴ・ド・ミドウ(Rue de Vin) (cave de midou)

東御市・祢津地区にある御堂(みどう)地域は、かつて蚕業が盛んだった時代の桑畑が時代の流れとともに長く雑木林となっていた土地でした。
地域住民と共に、この場所を「もう一度、実りのある大地に」と再生したのが、ワイン生産者たちです。中でも先頭に立って尽力してきたのがワイナリー〈リュード・ヴァン〉及び〈カーヴ・ド・ミドウ〉のオーナー、小山英明さんです。

小山さんは山梨や長野のワイナリーで経験を重ね、2006年に東御市へ。最初は御堂の隣に位置する十二平という小さな区画の段々畑を構成する元リンゴ団地を再生するところから始めました。耕作放棄地を復旧しワイン振興に取り組み、地域住民の信頼を得る中で、「広大な土地で大規模なぶどう園を作らなければ、産業としてのワイン造りは根付かない」という思いから、御堂に特化した支援ワイナリーである〈カーヴ・ド・ミドウ〉を設立し、新たな挑戦が始めました。

現在、御堂には11の生産者が集い、一面にブドウ畑が広がります。生産者たちの中心的役割を担う小山さんは、「ワインをつくるだけでなく、文化を育てる」ことを大切にしています。

小山さんは「事業として続く産業にならなければ文化にはならない」と語り、耕作放棄地の再生や子どもたちの収穫体験にも力を入れています。地元の小学生が収穫したブドウから生まれるワインは、成人式のときにその子たちが初めて口にする一本になる——そんな未来を描きながら、土地と人のつながりを育んでいます。

また、「栽培」「醸造」に次ぐ「販売」の拠点として市が設置した「ワインテラス御堂」では、地域で造られたワインや特産品を販売。
ここは単なる販売施設ではなく、地域の歴史と食文化を未来へ伝える拠点でもあります。指定管理者としても奮闘する小山さんは「ワインは食中酒。食への意識を高め、地域の食材を見直すきっかけになる」と話します。

ワイン造りを通して、人と土地、暮らしと農業が再びつながっていく——御堂は、そんな新しい循環の生まれる場所になりつつあります。


千曲川ワインバレーの中心に位置する東御市では、自然と人、そして時間が織りなす物語の中から、個性豊かなワインが生まれています。

丘の上のワイン文化の原点、挑戦と探求、学びの拠点、そして新たな風を吹き込む広大な元遊休荒廃地——それぞれの場所には、生産者の情熱と土地への想いが息づいています。
畑に立ち、風を感じ、グラスを傾ける。そんなひとときを通して、 “とうみワイン”が紡ぐ“豊かな暮らし”に出会ってみてください。

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