大人の部活――“とうみ”のワインブドウ畑から生まれる、唯一無二の居場所

千曲川ワインバレー東地区にあたる東御市には、かつては耕作放棄地だった畑が、ワインブドウの畑に生まれ変わった場所が多くあります。
そのうちの一つのとある畑で続いている「シェア・ヴィンヤード」と呼ばれる活動があります。栽培から収穫、醸造までを仲間とともに行うこの取り組みで、参加者は「大人の部活」と呼びワインづくりを楽しんでいます。

畑に集まる人々のかたち

「日本で唯一だと思うんですが、ワインを作るというサークル活動をやってます」

そう話すのは、長野県東御市で「シェア・ヴィンヤード」という活動を続けている辻新一郎さんです。ブドウ畑を複数人でシェアし、栽培から収穫、醸造までを仲間とともに行っています。その活動を、辻さんたちは自分たちで「大人の部活」と呼んでいます。

決まった曜日に必ず集まり、決められた活動をするものではありません。それでも、日々の生活の合間に畑に立ち、手を動かし、最後にはワインが出来上がります。そこには、仕事でも家庭でもない、もうひとつの時間が流れています。

東御市のブドウ畑に立つと、視界はひらけ、風がよく通ります。晴れた日が多く、空は高く、ブドウ畑の列が遠くまで続いています。観光地のような賑やかさはありませんが、「ほどよく、田舎。とうみ」の地だからこそ、日常から一歩離れてワインづくりに打ち込み、地域や仲間と交流する充実した時間を過ごすことができます。

ワインの「つくり手」になった人たち

シェア・ヴィンヤードの舞台は、東御市にあるワイン用ブドウ畑です。もともと耕作放棄地だった場所を引き受け、ワインブドウの栽培を始めたことが、この活動のスタートでした。

現在のメンバーはおよそ100人(主要メンバー33人とゲスト)。その多くは首都圏で暮らし、普段はそれぞれ異なる仕事をしています。年齢も、ワインとの関わり方もさまざまです。

共通しているのは、「東御市を訪れ、畑に立つ」ということ。作業が終われば、またそれぞれの日常へ戻っていきます。

「皆さん、都会で働いている方たちなので、こちらに来られるのは基本的に週末です。土日に作業をして、またそれぞれの生活に戻っていく。その繰り返しですね」

ブドウの収穫は、人の都合を待ってくれません。糖度や酸度、病気のリスクを見極め、取ると決めたら一気に作業を進める必要があります。

収穫期には20人以上が集まり、畑は一気に賑やかになります。普段は離れた場所で暮らす人たちが、同じ畑に集まり、同じ作業をする。肩書きや立場は関係なく、畑では全員が同じ「部員」です。

「趣味だからできる」こだわりの追求

畑で育てているのは、赤ワイン用のピノ・ノワールと、長野県固有品種の善光寺龍眼です。農薬や化学肥料に頼らず、有機栽培に近い方法で育てているため、手間も時間もかかります。

真夏の作業は特に厳しいものになります。日差しを遮るものは少なく、草取りや手入れは体力を奪います。収穫の時期には、時間との勝負になることもあります。

「正直、大変ですよ。労力は相当かかります。でも、僕らはこれで生活しているわけではない。趣味でやっているので、生産量が落ちても『まあいいか』って言えるんです」

辻さんはそう話します。
生活がかかっていないからこそ、効率や収益を最優先にする必要はありません。無理をしすぎず、納得できるやり方を選ぶ余地があります。

ブドウが本格的に収穫できるようになったのは、植え付けから数年が経ってからでした。ようやく安定して取れるようになったと思った年でも、天候の影響で出来が振るわないことがあります。

「今年は正直、あまり出来がよくなかったですね」

そんな年があっても、畑に立つことをやめることはありません。うまくいかなかった経験も含めて、次の年につなげていきます。

週末、畑に戻ってくる理由

この活動の特徴は、「必ず誰かが畑にいる」ことです。毎週末、100人のうちの誰かが東御市を訪れ、作業を続けています。

昼間の作業が終わると、夜はお楽しみの時間。自然と人が集まります。辻さんたちが「部室」と称して拠点にするのは、畑のそばにある古民家。作業の合間の休憩はもちろん、泊まり込みでも使っています。

「土曜日は例外なく、ここでみんな集まって食事をします。ワインを飲んで、そのまま泊まって、翌日また作業して帰る。そんな感じですね」

地域の人から鹿やイノシシの肉を分けてもらうこともあれば、山菜を採ることもあります。メンバーが自分の畑で育てた野菜を持ち寄り、食卓を囲むことも。食事を囲み、大好きなワイン片手に「ワインの話」に花を咲かせるそう。

年を重ねるごとに、顔ぶれが変わることもあります。それでも畑は変わらずそこにあり、作業は続いています。ワインが年ごとに味わいを変えるように、この部活も少しずつ形を変えながら続いてきました。

この活動をきっかけに、東御市との関わり方が変わった人も少なくありません。最初は観光として訪れ、ワインを買って飲み、畑に立つうちに、この土地で過ごす時間が少しずつ増えていく。やがて、シェアハウスで暮らし始めたり、移住という選択をしたりする人もいます。

辻さんは、そうした変化を特別なことだとは捉えていません。ただ、何度も通い、顔を合わせ、作業を重ねる中で、自然と関係が深まっていく。その延長線上に、暮らしがあると考えています。

「楽しいですよ。でも、大変です」

辻さんのその言葉は、軽くも重くもありません。続けている人にしか言えない、率直さがあります。

簡単にいかないからこそ、突きつめる醍醐味を味わえる。東御市のワインブドウ畑では、その楽しさを多くの仲間と共有できる大人の部活が今日も続いています。

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